ワニちゃんの話　その2

ちょっと痛々しい内容ですので、閲覧注意です。

ワニちゃんの話　その1はこちら

やらかしたワニちゃん

ワニちゃんは、言いました。

「今度の土曜の2時に予約してえんだよ。」

まず、診療所は予約制ではありませんでしたし、2時(14時)は受付は休み時間です。

午後は3時（15時）からです。

怪我人など、緊急の場合はもちろん診ますけどね。

何年も通院しているワニちゃんなら、当然知っているはずなのに。

いったいどういうことなのか。。。

鼻息荒く、やや興奮気味に体を揺らしながらワニちゃんは続けます。

「オレ、やっちったんだよ。・・・・だからさ、他の客に迷惑かけられねえしよ。休み時間に予約してえんだよ。」

なにを言ってるのかさっぱりわかりません。

客とは、診療所にくる患者のことを指しているんだな、ということはわかるけど・・・

なにか嫌な予感がしました。

ざわざわ…ざわざわ

↑心のざわめき「カイジ」風

何故予約なのか尋ねると

「俺が急患で入るからよ。すぐ処置してほしいんだよ。」

急患として受診する為に予約する理由。。。。？

受付カウンターに前のめりでもたれかかり、窓口の私に向かって

左手小指を立てて言いました。

「コレよ。コレ。オ・ト・シ・マ・エ。」

オ・モ・テ・ナ・シ？

違う違う違う！

ちがあああああう！！

オ・ト・シ・マ・エ

Σ(￣ロ￣lll)

うそでしょ？うそだよね？

私の心臓はバクバクと鳴り出し、オシッコちびりそうです。

当時はまだ若かったから、持ちこたえたけど、今だったらもう絶対漏らしてたね。

いやもう気絶するかと。。。

おとしまえ、、そんな言葉は映画か漫画かTVドラマでしか見たことも聞いたこともないわ！

でも、それは本当でした。

ワニちゃんは、その物騒な事務所の仕事で、何かやらかしたのです。

詳しいことは怖くて聞けませんでした。

でも、なにか組織に対してのオトシマエをつけなくてはならないような

ナニカをやらかしたのです。

その後、ワニちゃんは診察の順番がくるまでおとなしく待ち

診察室でその予約の件を院長先生にお願いして

ニヤニヤしながら、「んじゃよろしくなっ」て、帰って行きました。

オトシマエの日

そしていよいよ、オトシマエの日が来ました。

昼休みだというのに、院長、看護師、事務員、薬剤師、全員スタンバってワニちゃんを静かに待ちました。

事務員はカルテの準備。

看護師さんは、処置室のベッドの準備、消毒や縫合、薬や包帯の準備をします。

院長も14時前から処置室でワニちゃんを待ちます。

処置室というのは、診察室とカーテンで区切られている別の部屋です。

そこで怪我の処置など簡単な手術もできます。

14時を少し回ったころ、病院の玄関前に急ブレーキで車が止まり

助手席からワニちゃんが転がるように飛び出してきました。

おーう。だか、あーい。だか、なにか挨拶的な声をあげ

受付もせず誰もいない待合室を横切り、処置室へ走って行きました。

処置室のベッドがどこにあるかワニちゃんはよくわかっているのです。

左手には、血の滲んだタオルをぐるぐる巻きです。

受付も診察もせず、すぐに処置です。

止血、消毒、縫合・・・。

そして・・・

ワニちゃんは、短くなった小指に今度はぐるぐると包帯を巻かれて

処置室から出てきました。

「いでえ～いでえよ～」と言いながら会計を済ませて帰って行きました。

ワニちゃんとお別れ

それから毎日、消毒のために病院に現れるワニちゃんでしたが

いつも通りの愉快なワニちゃんでした。

包帯が取れると、面白がって傷口を見せてくれました。

新しく彫った首元の入れ墨も、「かっこいいべ？」と言って見せびらかしてくました。

見せてと頼んでもいないのに。。。(;´∀｀)

そんなワニちゃんの所属する物騒な事務所と診療所の関係は非常に良好で

ときどきオヤジと呼ばれる偉い人が

堅気の人々とは会わない時間帯にぞろぞろとお付きの人を連れて

診察にくることもありましたし

事務員や看護師に、よく甘いお菓子や飲み物を差し入れしてくれたりもしました。

診療所の待合室でワガママな理由で暴れる軽症患者がいるときは、

事務所の人に来てもらって助けてもらうこともありました。

助けると言っても事務所の人は姿を現すだけで何もしません。

たいがいの人は、事務所の人を見ただけでおとなしくなるのです。

あの物騒な事務所は診療所の用心棒的な役割であったような気がします。

それからしばらくして、ワニちゃんは隣町の事務所へ行くことになったから・・・と

挨拶にきました。

それが、なまワニちゃんを見た最後でした。

それから数年後、ワニちゃんは敵対する組織の誰かを殺傷して地方新聞に載りました。

私はその記事を見てもそれほど驚きはありませんでした。

そういう世界でワニちゃんは生きていた人だから。

新聞に載ったワニちゃんの顔は、実物よりちょっと男前でした。

今頃ワニちゃんはどうしているのかな？と、ときどき思い出します。

ワニちゃんの話を最後まで読んでくださってありがとうございました。

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